鬼海弘雄
ART
「イメージだけでいい写真もあるんですよ。おしゃれな店やきれいなモデルやファッションの写真は、いかに魅力的なイメージに撮るかが問題で、それはそれでいい。でも、僕が撮っているのは金にならない写真だからね。金にならない写真を真剣に撮る意味はどこにあるのかというと、それは写真を見てくれる人の想像力をどれだけ揺さぶれるか。それしかない。それは写真に限らず、詩でも文学でも音楽でも同じ。あなたの見る力、あなたの読む力で、物語を立ち上げて下さいというのが表現であって、だからこそ見る人の感性を貫くような「何か」がなければ表現とは言えないんじゃないかと。」
「写真も小説も音楽も、1回でわかるようなものはおもしろくない。想像力が動く、動き続ける。つまりそれは「考えさせられる」ってことですよ。何度読んでも飽きない本物の根拠は、そこにあるわけですよ。
誰でも表現できるということの本質は、自分の肉眼で見る、自分の頭で考え続けることでしかない。それが、成功した人の考えや言葉をマネしなくても自分で取るべき方向を判断できる、唯一の道じゃないかと思うわけですよ。」(鬼海弘雄)
鬼海 弘雄 きかい ひろお
1945年、山形県生まれ。法政大学文学部哲学科卒業後、トラック運転手、遠洋マグロ漁船乗組員、暗室マンなど様々な職業を経て写真家になることを決意。以来、写真表現の追求に身を投じ、1973年より浅草で出会った人々を撮り続けている一連のポートレイト群、独自の視点で町を写し出したシリーズで、一躍その名を知られるようになる。代表作は「東京ポートレート」「アナトリア」など。